ぬくもりは罪 原案 平尾アウリ「夢見る時が過ぎても」 脚本・脚色 葉月まな (2016.02.26更新) 希枝(きえ)・・・高校三年生。 はるか・・・高校二年生。 ※一応原案としていますが、お話としてはまったくの別ものです ※静かな百合台本です。注意。 <シーン1> 放課後の教室に二人っきり。 浮足立ったはるかの手には情報誌が握られている。 はるか ねーねー希枝ちゃん、ここのイルミネーションねー、すごいの! 花火とかもあってね、すっごくすーっごく綺麗なんだって! 行きたいなあー、希枝ちゃんはどうかな? 希 枝 冬に花火? はるか あんまりないよね?ね!でもきっと綺麗だろうなあ 希 枝 横浜かあ。混みそう はるか でも絶対絶対綺麗だよ! 希 枝 はるか はるか 希枝ちゃん、人ごみ苦手なの知ってるけど・・・ でも高校生最後の冬だよ、ね? 希 枝 はるか はるか ・・・なあに? 希 枝 別れよ はるか え・・・なに・・・?いきなり 希 枝 うん・・・ごめんね はるか 待って。時間ちょうだい 希 枝 考える時間?わたしの気持ちはもう決まってるのに? はるか だ、だって・・・ 希 枝 じゃあ、二週間後。冬休みが終わったら、わたしたちも終わり はるか ・・・・・・ 希 枝 わたし、先に帰るね はるか えっ 呆然とするはるかをよそに、にっこりと笑って去る希枝。 放課後の教室に一人取り残されるはるか。 さっきまで希枝が座っていた椅子に力が抜けたように腰を下ろす。 はるか 二週間? 雑誌をぎゅっと握りしめ、ぽつりとつぶやく。 はるか 二週間なんて、すぐじゃん <シーン2> ある日の朝の駅のホーム。 そこには大慌てで、顔を真っ赤にしたはるかがいた。 はるか えっ・・・あ、あの・・・! 戸惑うはるか。 思わず少し大きな声が出てしまい、はっと口を抑える。 同じ車両にいた希枝がその声に気づき振り向くと、 はるかは純朴そうな男子高校生に頭を下げられていた。 はるか えっと、その・・・ごめんなさい!わたし、その・・・ え、彼氏?あ、その、彼氏、は、いないけど・・・でも!だめなんです!! 希枝は思わずうつむいて、そのまま早足でその場を去った。 はるか あっ、ごめんなさい、動揺しちゃって・・・こわくなんて、そんなことないです でもこういうの、慣れてなくて・・・本当です うー、じゃあ、連絡先だけ。それで、ごめんなさい <シーン3> クリスマス。噴水広場で待ち合わせる二人。 たくさんのカップルを見つめながら、思いにふける希枝。 そんなとき、人ごみの中できょろきょろしているはるかを見つけ、ふっと力が抜ける。 希 枝 はるかー!ここ、ここー はるか ・・・いつもの希枝ちゃんだ えへへ、お待たせ 希 枝 ん。どうする?どこ行きたい?イルミネーションまでもうちょっと時間あるでしょ? はるか うん、そうだね いつもと変わらず笑顔のはるか。でもどこかいつもと違う。 希枝は差し出そうとした手をそっとポケットに突っ込んだ。 時間は流れ、イルミネーション。 希 枝 綺麗だね はるか ・・・ 希 枝 キラキラしてみえる はるか ・・・うん 希 枝 こんなきれいなイルミネーション、見たことない はるか ・・・わたしも 希 枝 でも、変な感じ はるか 変? 希 枝 クリスマスの花火 はるか 珍しいよね 希 枝 うん、綺麗 間 はるか ・・・希枝ちゃん。わたし、希枝ちゃんのこと、ずっと好き 希 枝 うん。ありがとう はるか ・・・っ はるか、希枝を無理矢理抱きしめる しばらく間をおいて、少しだけ抱きしめ返す希枝 希 枝 ・・・遅くなっちゃう はるか いいよ。・・・もうちょっと 希 枝 ダメ。おうちの人心配しちゃうでしょう?大丈夫だって。またすぐ会えるんだから 強引にはるかを引きはがす希枝 希枝の手をぎゅっと握りしめるはるか 希 枝 一緒に年越しできるでしょ? はるか やだ!ずっと一緒にいたいのに 希 枝 ・・・嬉しい。そういうのはじめて言ってくれた わたしだって、いつも不安だったんだからね はるか ・・・だから、別れるとか言うの? 希 枝 んーん。ちがうよ。それとこれとはさ はるか ・・・希枝ちゃん、 希 枝 これ ぱっと笑顔になり、小さな箱をはるかに渡す希枝。 きょとんとするはるかを見て、また少し笑う。 希 枝 開けて はるか 希枝ちゃん・・・ 希 枝 いーいから、開けて? 包み紙を破らないように、そーっと、そーっとテープを剥がすはるか。 はるか ・・・これ 希 枝 悩んだんだけどね 小さな箱から出てきたのは、華奢で可愛らしいネックレス。 希 枝 でも、はるかきっと似合うだろうなあって思ってさ。つい、ね 溢れる涙をぐっと堪えて、そっとネックレスを握り締めるはるか。 身に着けようとするものの、かじかんだ指がうまく動かない。 希 枝 かして はるか ・・・うん ネックレスを受け取るときに一瞬だけ、互いの指が触れる。 その一瞬で胸が高鳴り、はっと希枝のほうを見てしまうはるか。 希 枝 はるかは不器用だからなあ はるか ごめん 希 枝 手袋は? はるか え? 希 枝 いつもの手袋。最近つけてないでしょ はるか だって あれは1年記念日に希枝ちゃんがくれたものだから、と言いかけてそっと口をつぐむ。 なにも気づいていないふりをする希枝。 希 枝 できた はるか ・・・かわいい 希 枝 でしょ?絶対はるかに似合うと思った はるか ありがとう。希枝ちゃん、ありがとう。絶対大切にする、ずっと、ずっと大切にする 希 枝 はるか、 はるか ずっと、外さない。ずっと 希 枝 はるか 静かに、でも強い口調で名前を呼ぶ希枝。 その重さに思わず口を閉じるはるか。 言葉の代わりに、頬に涙が流れる。 希 枝 物に、罪はないから。ね? <シーン4> はるかM ずっと、1番近くにいると思っていた わたしには、希枝ちゃんのことがわからなかった 日が経つのがこんなに怖いと思ったことなんてはじめてだった カウントダウンイベントへきている二人 晴れやかな周囲とは違い明らかに落ち込んでいるはるか 希 枝 ハッピーニューイヤー!・・・おめでとう はるか おめでたくなんかないよ。希枝ちゃんと一緒にいられる時間が減っちゃった 希 枝 ・・・・・・ はるか ら・・・来年もさあ・・・ 震えるはるかの手をそっと握る希枝 希 枝 来年なんかないんだよ。最後なんだから 遠くで花火があがる 希枝を見つめるはるかの瞳に、じわりと涙が滲む はるか また花火、 希 枝 冬に花火って珍しいなって思ったけど、そういえばカウントダウンイベントって大体花火だよね はるか ・・・うん 短い沈黙 希 枝 最後だって思ったら、最高の思い出が作れるんじゃないかと思って 今まで一緒にいた中でも最高に素敵な景色を見られて はるかのことが愛しかった はるか 希枝ちゃ―― 希 枝 はるかの人生をわたしだけで終わらせちゃいけない はるか え 希 枝 来年受験生だし、大学に行ってはるかは男の子と恋愛するよ はるか どうして 希 枝 ううん、もっと早くかも。はるか可愛いしなあ はるか なんで、そんなこと決めつけるの 希 枝 しなきゃいけないの はるか ・・・希枝ちゃん 希 枝 しなきゃいけないんだよ はるか ・・・・・・ 希 枝 はるか、わたしこれからいろんな人に会って、きっと時々は恋もするよ。 でも、クリスマスの花火ははるかとだけ はるか ・・・うん 固く握っていた手をどちらかともなく解き、指を絡ませ、また重ね合う 新年を祝う花火を見ながらすこし汗ばんだ互いの手のぬくもりだけを感じている <シーン5> はるかM 冬休みが終わって希枝ちゃんがいなくなった 遠くに引っ越したんだって人づてに聞いた アドレスも、電話番号も変わっていて わたしと希枝ちゃんは、本当に冬休みと一緒に、終わった 今までに感じたことのない幸福感は、胸に痛かった ぼーっとしているはるか。 ふと、電話がかかってくる。画面の文字をみて、息を吸い込む。 はるか もしもし、けいちゃん?あっ、あの・・・うん 日曜日、噴水広場でね、うん、わかってる、大丈夫だよ、あそこよく使うから え?風邪?あー・・・(少し眉をひそめ、わざと咳き込む) ちょっとまだ喉は痛いけど、うん、もう平気。元気だよ。ふふ。 ありがとう、うん、じゃあ。じゃあね、おやすみなさい 電話をかけながら、首元のネックレスをずっと触ってしまう自分に、ふと気づく。 はるか ・・・明日は、これ着ていこっと シンプルなタートルネックのセーターをタンスの奥から引っ張り出すはるか その薄手のセーターは姉からのお下がりで、いつものはるかより大人っぽく映る どのスカートにしよう、と引き出しの中をかき回しながら、どうしようもない淋しさを感じるはるか はるか モノに、ツミはないから セーターをぎゅっと握りしめる はるか じゅうぶん、 涙がこみあげてきて、ぎゅっと唇をかみしめるはるか はるか ・・・希枝ちゃん。 Home